本当に猫と暮らせますか?~コロナ禍での猫ブームを考える~

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、テレワークの導入や不要不急の外出を自粛している人も多いと思います。自宅でテレビをつければ動物が登場する番組を目にし、YouTubeやSNSでは猫の動画が人気を呼んでいます。見ているだけで癒されて、犬と比べて手もかからなそうだし、自宅で過ごす時間が多い今、いっそのこと猫を迎えてみようか?と考える人が増えているようです。「猫」と一言で言ってもいろいろな猫がいて、一緒に暮らす人の生活もそれぞれ違いますよね。コロナ禍での猫ブームを、日々猫たちと接しているキャットシッターの目線で考えてみたいと思います。

猫を知ろう

猫の平均寿命

一般社団法人ペットフード協会の2019年の調査結果によると、室内で暮らす猫の平均寿命は15.95歳でした。猫歴約40年の私が見ても、猫の寿命はどんどん延びていると感じます。20歳を超える猫さんもめずらしくなく、生後数か月の子猫を迎える場合は、20年一緒に暮らすつもりで生活プランを立てましょう。

1か月にかかるお金

同協会の同年の調査には、1か月当たりの支出総額も報告されています。猫に関する支出総額は医療費を含めて、[1か月 7,485円]だそうです。ちなみに2018年は6,236円だったそうで、1,249円増えています。総額なので内訳は不明ですが、猫にかかる支出はだいたい以下の通りです。

・ごはん、おやつ
・トイレ用品(砂、シート等)
・爪とぎ
・オモチャ

ごはんや排泄は毎日のこと。爪とぎやオモチャはボロボロになる前に定期的に新しくする必要があります。医療費(診察、検査、処置、薬など)は毎月かかる場合と、突発的にかかる場合があります。猫の医療費は人間と比べると高額です。ペット保険を検討する場合は、保険料も毎月の支出として考えておきましょう。他にも、ブラシやコーム、爪切り、歯みがきなどのお手入れグッズや、食器、キャリーバッグ、首輪、給餌器、給水器などなど・・・生活に応じて必要なものを揃え、消耗品はその都度買い替えることを想定しておきたいものです。

人気猫種の裏側

日本では、スコティッシュフォールドやマンチカンが根強い人気を集めています。動画や写真の愛くるしい姿を見て、猫を迎えるならこの猫種がいい!と考えている方がいらっしゃるかも知れません。しかし、多くのペットショップは猫の遺伝的疾患については何も説明していない現状があります。キャットシッティングのお打ち合わせでお客様からお話を伺うと、猫を迎えて初めてその猫種の特質を知ったというケースがとても多いです。中には、毎日の目薬が欠かせず毎月病院に連れて行く必要があり、こんなはずじゃなかったと言葉を漏らした方もいらっしゃいました。例えばスコティッシュフォールドの耳が折れているのは軟骨の異常が原因で、いずれ関節疾患など何かしらの症状を発症する確率はほぼ100%とも言われています。何ともないように見えても、いわゆる“スコ座り”をしていたら、それは痛いサインかも。医療費がかかるのはもちろん、痛みに耐えているであろう猫が、時に狂暴化するケースも目の当たりにしてきました。どうしてもその猫種を迎えたいのなら、その猫種の特質をしっかり学んで理解した上で最期までケアできるかどうか検討してください。

 

猫との生活を想像してみよう

性格は猫それぞれ

初めて猫を迎える場合、一緒に遊んで、いつもそばにいて、モフモフのおなかに顔をうずめて・・・なんて楽しい生活を思い描きますよね。一般的に猫は生後2週齢~7週齢が社会化期の礎と呼ばれ、この時期に体験した出来事は受け入れやすくなります。この時期に人間と接していた猫は人に慣れている傾向がありますし、逆に人間と接していなければ人見知りをするかも知れません。最初は警戒していても、徐々に慣れ、おなかを出して寝るようになる猫もいれば、いつまでも人に触られることを嫌がる猫もいます。どんなタイプでも受け入れると心に決め、そのコそのコが生きやすい環境を整えてサポートしましょう。

赤ちゃんと暮らすつもりで

私はよく、猫と暮らす人には「赤ちゃんと暮らすつもりで整理整頓、掃除をしてください」と伝えます。猫は基本的に床面を歩き回り、家具の上などにジャンプをします。猫がゴミやほこりだらけの床を歩けば、その手足を舐めて体内に異物が入ってしまいます。人間の赤ちゃんを想像してみてください。ハイハイをする赤ちゃんの進路は清潔に保ちますよね?何かが落ちていれば手にとって口に入れてしまうから、危ないものは赤ちゃんの手の届かない場所に移動すると思います。ご自身が素足で歩いて気持ちの良い部屋が、猫たちにとっても心地良い場所です。家具の上も不要なものは置かないようにして、落ちたら危険な割れ物や猫に有害な植物は猫の手の届かない場所に移しましょう。掃除で洗剤や消臭剤などを使う場合は、猫に有害ではないか確認してくださいね。

旅行や出張の時はどうする?

さて、今現在テレワークや外出自粛で時間を持て余し、猫と暮らそうと考えている方に質問です。新型コロナウイルスの感染拡大が終息し、みんなで旅行に行こう!となった場合、猫はどうしますか?当分旅行の予定はないと思っていても、めちゃくちゃ多忙になり、家には帰って寝るだけの日々、出張が増える可能性などはどうでしょうか?あるいは転勤や何らかの理由で引っ越しをしなければならなくなった時、猫を一緒に連れて行けますか?旅行や出張、入院などの一時的な留守はキャットシッター(ペットシッター)に依頼できます。もちろんお金はかかります。猫のお世話を頼める親族や友人がいればお願いしてみるのも良いですが、2日以上猫だけで過ごすことのないように注意してください。

災害時に守れますか?

今年の梅雨は、雨による災害が続きました。これから台風シーズンを迎えますし、地震はいつどこで起こるかわかりません。猫と暮らすのであれば、猫との防災についてもしっかり考えておきましょう。猫と一緒に避難することのできる避難所の有無は各自治体にあらかじめ確認しておきましょう。非常用のリュックには、猫のごはんやトイレ用品もお忘れなく。在宅避難を想定する場合でも、猫のごはんやトイレ砂(シート)は普段から多めにストックしておき、1か月分は余裕を持っておいたほうが安心です。特に毎日投薬が必要な猫と暮らしている場合は、獣医さんに相談をして余分に薬をもらえるか聞いてみましょう。災害時も家の中が安心安全な場所であるためには、家具の固定や窓ガラスの飛散防止対策、猫の脱走防止対策も普段から準備してくださいね。

最期まで責任を持つ

我が家の猫たちは生後2か月で私のもとにやって来ました。子猫の時は本当にやんちゃで、カーテンにのぼったりゴミ箱をひっくり返したり、毎日てんやわんやで大変でした。おとなになっても遊ぶことが大好きで、甘えんぼうで、でも人見知りで・・・来客のたびに怯えていては不憫だと気がつき、少しずつ友人を招いてはオヤツをあげてもらい、誰が来てもだいたいへっちゃらな猫たちになりました。私の都合で猫連れの引っ越しを4回しました。賃貸住宅に住んでいたときは、ペット可の物件は本当に少なくて、しかも猫2頭可はほとんどなくて、物件探しに苦労をしました。16歳を過ぎた今、2頭とも慢性腎臓病を患い毎日朝晩2回の投薬をしています。1か月の薬代は約2万円(2頭分)。1年に2~3回の定期健診にも連れて行き、体調を崩せばその都度病院に連れて行きます。まだまだ食欲がありよく食べてくれますが、時々便秘になり思わぬところにウンチが落ちていることもあります。夜中に布団の上で吐くこともあります。これからますます手がかかり、介護が必要になる可能性もあるでしょう。それでも本当に可愛くて愛しくて大切な存在です。1歳の時はレベル1の可愛さ。16歳の今はレベル16の可愛さです。猫の最期を見届けることが一緒に暮らす人間の責任だと私は思います。

 

先住猫と新入り猫の会わせ方

いきなりご対面はNG

もうすでに猫と暮らしていて、2頭目3頭目を迎える方も増えています。そこでご注意していただきたいのが、「ほら、お友達よ~」といきなりご対面をさせてしまうこと。本来単独で生きる猫たちにとって、お友達という概念はおそらくないでしょう。いきなり見知らぬ猫が現れたら、自分の縄張りを脅かされていると感じるのが普通です。もちろん初対面で猫同士が仲良くなる場合もありますが、通常は段階的にお互いの存在を認めていくようにサポートしたほうが平和的です。

先住ファーストを心掛けよう

では、新しい猫を迎えることになったらどうすれば良いのでしょうか。まずはケージを用意し、新入り猫さんはケージ生活から始めましょう。ケージは動き回れる2段以上のものがオススメです。リビングの片隅や隔離部屋に置き、布で覆うと中にいる猫が安心します。ただし布を食べてしまう猫さんもいるため、最初は注意深く見守ってください。先住猫さんの反応もそれぞれで、新入り猫さんに興味津々で近づく、無視する、トイレ以外の場所に粗相をする、下痢をする・・・などなど、気にせず迎え入れるタイプと、気にしてストレスを感じるタイプに分かれるようです。ついつい新しい猫さんにばかり気が向いてしまうのは仕方のないことですが、先住猫さんを第一に考えましょう。

新入り猫の気持ちもわかって

とはいえ、新入り猫さんは見知らぬ場所で見知らぬ人間に囲まれ、不安でいっぱいになっているかも知れません。そして先住猫さんにはシャーシャー威嚇されて縄張りを主張されることも。新入り猫さんが好奇心旺盛だったり動じないタイプだと、意外と堂々と振る舞い、ケージから出したときに先住猫さんが逃げ回るというケースも少なくありません。ケージから出す時間は徐々に長くして先住猫さんと新入り猫さんの動向を観察しましょう。大好きなオヤツを同時にあげるなどして、一緒に暮らす人が猫たちの仲を取り持てると良いですね。遊びたい盛りの新入り猫さんの場合は、オモチャで一緒に遊んであげてください。先住猫さんと遊ぶこともお忘れなく。

人間の願望を押し付けない

今まで猫1頭だった生活が猫2頭になり、くっついて眠るようになれば念願の「猫団子が見られる!」と頭をよぎることもあるでしょう。他人ならぬ他猫同士でもくっついて眠る関係になる場合もありますが、たいていはつかず離れず、人間のベッドの端と端に寝ていたらそれは大きな進歩です。ケンカをせずに同じ空間にいられることを目標にしましょう。

猫も生きている

人間を幸せにする猫たち

実際に猫と暮らしてみると、毎日いろいろな発見をすることもあるかと思います。
おうちに猫がいるだけで、ほんわか温かみのある空間になることを常々感じています。

アニコム損害保険の猫の生活実態調査「nekokusei調査」(2018年)では、興味深い結果が出ていました。

[猫と暮らしてよかったこと]
1位:癒される(90%)
2位:生きる力になる(50.9%)
3位:家族との会話が増えた(50.7%)
4位:寂しくない(38.2%)
5位:家の中をより片付けるようになった(33.4%)

そして、[猫と暮らし始めて幸福度が高まったか]という質問には、なんと99.7%の人が「とても高まった/高まった」と回答しています。コロナ以前の調査結果ではありますが、これは今現在もさほど変わらないように思います。

もしも自分が猫だったら

人間を癒やし、幸福感をもたらしてくれる猫たち。では、自分が猫の立場だったらどうでしょうか。一緒に暮らすその人間は、自分を癒してくれますか?毎日ごはんを食べることができて、雨にも濡れず夏は涼しい場所で、冬は暖かい寝床で眠れる。それだけで本当に満足ですか?一生そのおうちで暮らして幸せですか?私たち人間には衣食住の基本があり、その上で仕事や趣味に楽しみや生きがいを見出していますよね。猫にも日々の生活の中で、ちょっとした刺激や活き活きとできる時間が必要です。自分が猫だったら、今のおうちで暮らしたいか?今のおうちで暮らして満足か?と考えてみると、猫目線にだいぶ近づくかも知れません。

猫を幸せにする

猫を迎えるきっかけはそれぞれで、入念な準備をして猫を迎える場合もあれば、ある日出会ってしまい突然迎える場合もあります。きっかけが何であれ、長い年月を共に過ごしていれば、時には気持ちがすれ違うこともあるでしょう。忘れないでいただきたいのは、猫も生きているということ。猫は誰かがお世話をしなければごはんを食べられませんし生きていけません。猫と一緒に暮らすということは、猫に幸せにしてもらうのではなく、猫を幸せにすることです。その猫が幸せになってはじめて、あなたに癒やしや幸福感をプレゼントしてくれることでしょう。

 

まとめ

猫と暮らすためにはお金も時間も愛情も必要です。猫を迎えるご家庭が増えるのは嬉しい一方、安易に猫を迎えた結果、飼育放棄につながるような事態が増えつつある現状を知り、今回このような記事を書きました。2020年6月から施行された動物愛護管理法では、猫の飼育放棄・虐待は1年以下の懲役または100万円以下の罰金。そう、犯罪なんです。猫はオモチャや飾りではありません。飽きたから、邪魔になったからと言って手放すわけにはいかず、一度一緒に暮らし始めたら、最期までお世話をしなければならないのです。幸せな猫と、幸せな人が増えることを切に願います。

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